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雨と紅茶と椅子のうえ

愛想くらいはいい子でありたい

ナンパな話(執筆2日目)

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「すいません、いま何してるんですか?」

渋谷や新宿など、人の多いところにいくと、よくナンパされる。わたしがあまりにトロトロ歩いているせいか、はたまたヘラヘラした空気があるのか、それとも簡単に落とせそうな雰囲気があるのかは定かではないが、いずれにしても(一般の人にとって)よくない印象を醸し出しているせいで、よく声をかけられる。

ナンパというのはとんでもない技術だなと思う。一瞬横顔を見ただけで声をかけにいくその瞬発能力の高さに、というか、知らない人に声をかけるその勇気に、というか、その生命力の高さみたいなものにわたしは感心してしまう。


余談だけれど、わたしも一時期「自分からナンパしてみよう!」などとくだらないことを思いついたのだけど、実際に街中で見極めをしてみると意外と難しいことがよくわかった。

第一、一瞬で人を判断するというのが難しい。もし「あっ、かっこいい!」と思ったとして、万が一ナンパがうまくいってしまったらどうするのだ? その人に奥さんがいるのか、それともとんでもないヒモ男になりえる潜在能力を秘めた男なのか、わからないじゃないか。ナンパしといて「僕もきみがタイプです」と言われても「やっぱ違いました」というのはナンパのルール的にありなのか? とか、そういうくだらなさに拍車をかけたようなところにまで思考が及んで、いつもナンパを諦めてしまう。

そういうわけでわたしは一度もナンパとやらを行ったことはないのだけど、そこらじゅうの女にほとんど顔もみずに声をかけてくる男の人というのは、どうやらいまもむかしも存在し続けているようだ。

そして、そのナンパについていく女の子も昨今ではかなり増えていると聞く。

「ナンパ?ついていくよ。そぉなんだぁ!すごぉい!って言ってケーキおごってもらう時間と思いなよ。そのあとは帰ればいいんだし」

と友達は語っていたし、ナンパ師をやっている友達も

「意外と10人に1人くらいはお茶に付き合ってくれる」

と嬉々として語っていたので、需要と供給のバランスはさほど悪くはなさそうだ。

 

そしてわたしはというと、実際にナンパについていったことはない。名誉のためにいうと、後日改めて会ったことも一度もない。ただ、その場で仲良く話してしまう癖があるのだ。困ったことに。

 

「こんにちは〜」と話しかけてきた男の人に「こんにちは〜」と笑顔で返し、そのまま「わたしはあなたとご飯にいく気はないんですけど、駅までいくので一緒にいきますか?」とか「いまから買い物にいくので、そのビルまで一緒にいきますか?」と逆に提案してしまう。先手必勝と言わんばかりに。

そうすると大体の男の人が珍しがりながらも、駅やビル前まで一緒についてきてくれるのだ。

別に話をするのが嫌なわけじゃないから、そうやってついおしゃべりに興じてしまう。


「お仕事なにされてるんですか?」
「何歳なんですか?」
「よくここにいるんですか?」

 

と、逆に質問攻めにする。

そうすると、ナンパしてくる人は大体たじろいでしまうのだけど(かわいそう)、でも、こんな街中でたっくさんの人混みの中からわたしに声をかけてきた奇異な人のことならわたしも知りたくてたまらないのだ。許してほしい。

しかもわたしのやっかいなところは、しっかりと名前を覚えてしまうこと。「連絡先おしえてよ、友達になろう」と言われればいつもこう返す。

 

「わたしたち、もう友達でしょう?明日以降このあたりで見かけたら、だいすけさんって声掛けるから、そのときまた話しましょうね」

 

そんなことをいうと「絶対会えないじゃん!!」と男の人は笑い出すのだけれど、これが意外とよく会える。

そういうわけで、わたしには渋谷によくいるけんじさんやだいすけさんと友達になってしまうし、見かけると手をふってしまうし、そうか今日も元気にナンパしてるんだなぁなどとほっこりする。向こうにとってはたまらなく嫌な女だと思うけれど。

 

こういうくだらない遊びをよくしているせいで、声をかけてきた人とナチュラルに友達になってしまうことがよくあるけれど、先日こんなことがあった。

 

「すいません。美容の仕事をしているもので、エステのモデルを探しているんですけど」

 

男は40歳手前に見えた。なんとなく話を聞いているとだんだんに「独立するなら家を買ってからにしなよ」だとか「車も買っておくといいよ、ローン組めないし」とか、そういうエステとはかなり遠い話になっていった。その上、「〜なんだよね、ウン」というときの「ウン」の場所で必ず白目になるという特徴をもった男だった。

話にだんだん飽きてきたわたしは「あへへー」とあからさまな愛想笑いを振りまいていたのだけど、彼は一向に話をやめようとしない。

 

わたしの心の目がだんだんと白目になりかけた頃、ようやく離してくれたのだけど、結局彼から得られた面白い情報は「この人はよくこのあたりで声をかけていて、美容の会社をしている人で、家を持っていて、よく白目になる人」ということのみだった(実につまらない男だった)。

 

話の途中からだんだんと私の脳内は「今日なに食べよう?」へと移り、さようならをした頃には「そうだ、大好きなラーメン屋さんに行こう!」と思い立ち、猛烈にご機嫌になっていた。

 

その帰り道にもう一回ナンパにあいつつも(夏の日曜日の渋谷は活発)、それをご機嫌で交わして(彼はIT企業の営業マンで高そうに見えるジャケットはZARAで買った3000円のものなのだそう!)、ようやくつけ麺やさんにたどり着いたとき、事件が起きた。

 

「ラーメン780円」とかかれた食券機を目の前に、なんと700円しか持っていないではないか!

(うそでしょう?ここまで白目に耐えたのに?)

そう思いつつカバンを探ると、わたしのだらしない性格が功を奏し、なんとカバンの底から100円が出てきた。

(最高!人生最高!アーーメン!!これでラーメンにありつける!)

 

そう思った瞬間、二階から降りてきた店主に声をかけられた。

「すいません。

もう、今日おわっちゃったんで」

 

「え?」

 

慌てて時計をみた。
時刻は21:10。まだそんなに遅くない時間のはずだ。
「世のサラリーマンの味方、ラーメン屋でしょ?」という私の目を察知して店主は続けてこう言った。

 

「日曜は、21時までなんで」

 

……。サラリーマンの味方も、日曜は休むのか……。そうか……。

 

「〜〜なんだよね〜ウン(白目)」を10回くらい省略していれば、わたしはこのラーメンにありつけたかもしれない。「〜〜なんだよね〜ウン(白目)」のおじさんのせいである。そしてそのおじさんと話していたわたしのせいである!間違いない!

 

悔やんだ。非常に悔やんだ。
人と話すのが楽しいからという理由で、ナンパしてきた男の人たちの個人情報を、誰にも求められていないにもかかわらずせっせと集めていた自分を心底軽蔑した。

好きな食べ物を逃すほど、ナンパの男の情報が好きか?答えはもちろんNOである。

 

今後は自分の時間をもっと大切にしよう。

 

結構真剣に胸に誓って、違うラーメン屋さんに出向いたという、くだらなく、じつに軟派な話なのでありました。